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Webエンジニアのために・・・ SEフトシ君の転ばぬ先の商慣習

トシくんは、IT専門学校を卒業後、中規模SIerにて働くコーディング大好きな若手SE。 プログラミングならなんでもござれ!…と強気な一方で、商慣習とかについてはまったくの門外漢。故に「なんすかそれは」と、失敗なんかもポコポコと。 そんな彼の体験談。はてさて、今回の話やいかに。

 それはワタクシSEフトシめが、まだお肌ピチピチの若かりし頃、ある企業さんの経理システムを手がけることになった時の話です。

 

その企業さんは、ある業界での中堅どころな卸売り業者。ウチの会社と直接の接点はなく、関連他社さんのシステムを手がけた関係で、「それではウチでも」と声をかけていただいたのです。

 そんなわけで、もちろんこれがお客さんと弊社との初めての取引でありました。

 

 さて、その打ち合わせ席上でのこと。

「…という流れなんですけどね」

「わかりました。経理システムのイントラ化については弊社の得意とするところですので大丈夫です。是非お任せください」

「ああ、ならいいんだけどね。経理を皮切りにゆくゆくは人事や受発注の方もシステム化していきたいと思ってるから、本当によろしく頼みますよ」

「はい、もちろんです!!」

 そう元気よく答えはしたものの、あらためて念押しされると正直汗がにじみ出るワタクシなのですよ。だってなんか責任重大って感じがするじゃないですか。たいていこのへんの話って、毎回契約の方でもっと上の人とか営業さんが勝手に片付けてることだから、直接自分にプレッシャーがのし掛かることってないんですよね。

 ああ、なんで今日はリーダさん来てないんだろ。

 ああ、それはあれか、昨日みんなで飲みに行った時のマグロユッケビビンパに当たったからか。やれやれだなぁ。

 

 そんなふうに腹の中では内心ドギマギしつつも、お客さんとの話は続きます。もちろん表面上は平静を装ったまま。白鳥は水面下でナントカの如しなのです。

「開発の流れとしましては…」

「納期は今ですと…」

「初期の設計段階では実際の運用に携わる方にヒアリングをデすね…」

「打ち合わせは当面週一程度で…」

 若干声がうわずったりしながらも、だいたい必要かなと思う範囲は話し終わって、そろそろ引き上げますかという時間に差し掛かりました。

 と、その時です。

「あ、そうそう忘れてた」とお客さん。

 ワタクシの脳みそはすっかり終了モードに切り替わりつつあったので、一瞬ピクンと頬肉がこわばります。

「御社のサイトを見せてもらえますか?やはり取引する上では重要なので」

 サイト?

 なんだそんなことか。

 安堵のあまり、たぷんとゆるむ肉。さっそくワタクシ持参したノートパソコンにWILLCOMの通信カードをぷっすり挿しまして、弊社のWebサイトを表示してご覧差し上げたのです。

 

 一瞬の沈黙。

 

「いや、『支払いサイト』を見せてと言ってるんだけど?」

「支払いサイト?」

 見ればお客さん、口の端が微妙にゆがんでます。なんか怒ってるらしい。でも、それがなんでだかワタクシにはわかりません。

 そもそも『支払いサイト』というのが、どんなWebサイトのことを言ってるのかがよくわからない。弊社の作った決済システムとかの実績を見せてってことなのかしら?

 そんな風に逡巡してるワタクシに、お客さんが言いました。

「ひょっとして『支払いサイト』って知らないの?本当に大丈夫?取引の言葉すら知らない担当者のいる会社と取引して、本当に大丈夫なのかなってすごく今不安なんですけど!?」

 この日帰社したワタクシを、上司の激しい叱責が待ち受けていたのは言うまでもありません。

「支払いサイト」といったらあれですよね。「どんな周期で支払いがなされますか」みたいなやつ。

そうですね。支払い周期…みたいな感覚かな。「その取引について現金化なされるのはいつですか」みたいな。

ナン日締めで翌月10日払い、みたいなの?

そう。だから今回のケースだと、取引する上で、御社に支払わなきゃいけない締め日関係の情報を見せろと言ってるわけですね。

でも普通「サイトを見せろ」なんて言います?

まあ、言わないね。「教えてくれ」かな。「御社の支払いサイト教えてください」というのが普通かも。

じゃあ、勘違いしてもしょうがないじゃないですか。

うん、でもその先で知らなかったのが露呈してるから、そりゃ不安に思っても仕方ないかなぁ。

そっか。そういえば、そもそも不思議だったんですけど、「サイト」ってなんすか?なんで「支払いサイト」なの?わかりやすく「支払い周期」とかでいいじゃないですか。

え!? いや、えええ!? …うーん、なんでだろ。

なんだ知らないんですか。しょうがないなぁ、じゃあ3日あげるから調べといてくださいよ。

む、むぅん。はい。

…で、3日経ったわけですが。

はやっ!!

宿題は済みましたですかね。

はいはい、調べましたよ。どうも語源は「at sight」という英語から来てるみたいですね。「見たら払えよ」という、手形の一覧払い形式から来てるみたいです。

………は?

だからね、手形を見せて現金化できることが語源。手形を振り出してもすぐには現金にできないでしょ。じゃあ何日後に現金化できるようになってるのかと、その「何日後には現金化できるようにしておきますよ」という決めごとから来た言葉が「支払いサイト」なわけ。

あ、だから「○日締め」と債権確定の言葉があって、次に「○日払い」と現金化される日が来るわけだ。

そう。ちなみに他の会計士さんを幾人かあたってみたけど、みんな「いや、サイトはサイトでしょ」って語源なんか知らんかったですね。

そうですか。普通はあんまり気にならないのかなぁ。

うん、普通は気にしない。

きたみりゅうじ

作家・きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。本業のかたわらWeb上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
URL:http://www.kitajirushi.jp/
※大好評 Webエンジニア武勇伝にも掲載!第10回 きたみりゅうじ氏

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