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代表取締役にインタビュー
前田: 早速ですが、川井さんがこの会社を創ろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
川井: 木村さん(株式会社ケイビーエムジェイ代表取締役)から「Webに特化した人材派遣会社を作らないか?」と声をかけてもらったのがきっかけです。前職の派遣会社には結局14年いたんですけど、営業、企画、新規事業を立ち上げと、一通り経験もしましたし「そろそろ独立しようかなー」と思っていたタイミングでもあったんですよ。
前田: なるほど。事業内容についてはすでにお考えがあったんですか?
川井:「Webに特化した人材派遣事業」っていう提案があったんです。ITに特化した人材派遣   会社に比べてWeb系の人材派遣会社はほとんどないということで領域的にはおもしろいし、   インターネットの技術もどんどん発達しているのでそれを支えるのもいいなと思ってそれに決めました。
前田: ほうほう。経営理念についてもこだわりがあったと聞いてますが。
川井:「IT業界の多重の構造を壊すことでエンジニアをもっと幸せにしよう」っていうことですね。
前田: はい。何故そうしようと思われたんでしょうか?
川井:前職で7次請けの会社にエンジニアを派遣したことがあったんですが、それはもう悲惨な状況でした。年収は安い、何を作ってるのかも分からない、名刺は持ってない、自分の会社も名乗れない、残業代は出ない、タイムシートは5箇所にFAXしなくちゃいけない、そんな状況を改善してくれっていってもとにかく調整がきかないし本人も全然楽しそうじゃない。下請け構造が蔓延するとそんな状況の人がたくさんでてきてしまいエンジニア本人に全くメリットがない状況になってしまうんですよ。
前田: なるほど。それを何とかしたいと思ったんですね。
川井:そうなんです。
前田: その後についてお聞かせ願えますか?
川井:紹介会社から連絡がありまして、木村さんと面談をしたんです。「大筋いいかな」という感じでした。その後にもう一度食事をして、そこでほぼ合意をして決めたっていう感じですね。木村さんの会社もおもしろそうだなって思いましたし。
前田: なるほど。ただ、会社を起こすとなると1人ではできないんじゃないですか?
川井:もちろん1人じゃできないのでパートナーを探しました。自分はどちらかというと「突き進むタイプ」ですし、逆に「守ってくれるタイプ」がいいかなという思いもあり、高校の同級生だった現取締役の齋藤を誘ったんです。彼は大手のSierに十何年もいましたし、IT系の知識も豊富でしたからね。ただ、当時彼は上場もしている会社にいたもので「来ないかなー」って思ってたんですが、誘ってみると何か感じとってくれたみたいで「来ちゃった」って言ってくれたんです(笑)
前田: (笑)
川井:2人で毎週土日になるとパソコンを持って喫茶店につめて、経営理念、事業計画、コンセプト、中期計画なんかを全部言葉にしていったんです。最初は赤字の計画で出したんですけど、木村さんに「黒字になりませんか?」って返されたもので齋藤と2人で「ハードル高いねー」なんて言いながらも黒字になるように直して出したんですよ。そうしたら今度は「利益率もっと上がりませんか?」って言われて(笑)「え、利益率を上げるとなるともっとハードル高いよなー」なんて思わず顔を見合わせてしまいましたよ。
前田: それで3億とかになってしまったんですね。
川井:そうなんです。
前田: では、ウェブキャリアという社名については?
川井:ウェブっていうのはつけようと思ったんですけどその後がなかなか決まりませんでしたね。結局3時間くらい議論した結果「ウェブキャリア」に決まったんです。
前田: 社名って重要ですもんね。
川井:はい。その後は会社の登記から始まって、名刺作成、ホームページ作成、なんだかんだで1ヶ月なんてすぐに経っちゃいましたね。年末から会社作りを始めたものの、形ができたのは2月くらいですからその間は思うように営業もできないですよね。1ヶ月目は売り上げもありませんでした。やっと最初の人材募集を出せたのが2月の頭で、募集の原稿もそうとう力作自信作だったんですど全然エントリーがなく来社ゼロで、さあどうしようかと(笑)
前田: 一大事ですね(笑)改善策はあったんですか?
川井:すぐにリクルートの時に使ってたIT系に強い募集媒体に変えて掲載したところ、これが見事に当たり。初のエンジニアの入社が決まりました。今もコアメンバーとして活躍してもらってる社員です。齋藤に聞いてもらえば分かるんですけど、彼は某有名企業とうちで迷っていたんですね。結局、親身になったのが伝わったのか「うちでやりたい」って言ってくれました。「あぁ、齋藤を選んでよかったな」と思いましたね。
前田: ほうほう。その施策で一気によい方向に展開したんですね。
川井:そうなんです。エンジニアも入社してくれましたし、3月からは事務の人も入ったので「ここらでいっきに勢いに乗っていこう!」と思って6つくらい募集媒体に掲載しました。エントリーの対応をして、スカウトメールも出して、日程を調整して、面談やって、そう考えると結構大変でしたね。ただ頑張ったかいもあって月に20〜30人来社してくれるようになり、そのうちの2,3人は入社というペースができたんです。
前田: なるほど。紹介事業を始めたのもこの頃でしたよね。
川井:派遣の免許と紹介の免許を申請したのが3月の末で、取得したのが5月1日です。なので紹介事業はそこからスタートですね。2〜7月までは赤字が続いてなかなか黒字にならなかったんですけど8月に初めて紹介が決まりまして、これでやっと月次が黒字になったので「やっと利益が出たね」っていう感じでほっとしたのを覚えています。ただ前半の借金みたいなものが結構ありましたからね。会社がつぶれるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしていましたよ。
前田: でもやっと一安心ですね。
川井:はい(笑)その紹介決定も齋藤の賜物で、7社受けて結構内定をもらっている状態から8社目をぶつけて決めてくれました。確率的にいうと本当に低いところからなので、素直に「すごい」と思いましたね。そういう風に「人集めは僕の方でやって齋藤が決めていく」という形が見えてきてからは、月次がほぼ黒に転じてそのまま推移していきました。あとは5月に1人7月1人、上半期にポイントポイントでいい人がとれていて、今もほとんど残ってくれています。その辺りで入社してくれた人達は継続性がすごく高いですね。
前田: なるほど。継続性というのは?
川井:辞めないんですよ。7,8月までに入社してくれた人達はほとんど残っていますね。うちの紹介で会社を移った人はいますけど、「つながりが切れちゃった」とか「いなくなっちゃった」っていう人はいませんし。だからポイントだったのは「上半期に結構いい人が採用できた」ということと「最初にすごくいい人が紹介で決まった」ということですね。特に5月に決まった「佐藤さん」は、正社員として初めての女性だったこともあり「こんな人もうちに来てくれるんだー」っていう印象でしたね。
前田: 苦労話はたくさんあると思いますが、中でも一番苦労したことってなんですか?
川井:一番苦労したのは売り上げが立たないんで、「どこかのパートナーから仕入れてくるほうが楽だよね」っていう話をしたりして悩んだことですね。
前田: なるほど。でもそれは今はやってないですよね?
川井:やってないです。齋藤もそういうのが普通の文化にいましたし、「そんなこといったって売り上げが立たないとしょうがないじゃん」って言われてケンカをしたんです(笑)。
前田: ケンカですか(笑)
川井:はい。それに対して「この方針で行かないと絶対にうまくいかない」って彼の意見をつっぱねました。価値観というか戦略の問題ですね。
前田: 真っ向から対立したんですね。その件について今はどう思われていますか?
川井:やっぱり「IT業界の多重の構造を壊すことでエンジニアをもっと幸せにしよう」というポリシーを守っているからこそウェブキャリアに人が集まって来てくれると思っています。齋藤も今は同じポリシーでやってくれていますし、成果も上がってきています。もしあの時に、妥協してパートナーをバンバン使い始めていたら「うちは正社員だけです」ということは言えなくなってますし、もちろん紹介予定派遣もないですね。案件についても「エンドユーザーに近い」という強みもなかったでしょうし。そういう副次的な売り上げもメリットも含めてウェブキャリアとして打ち出すものが何もなくなっていたでしょうね。売り上げはもっといってるかもしれないですけど「ただの利益率が低い横流し産業」になってる可能性もありますね。そこはやっぱり「売り上げを上げるために妥協するか」っていうことと、「いくら苦しくても経営理念にこだわってやるか」っていうせめぎ合いしてなんとか乗り切ったという感じです。
前田: つまり経営理念は当初から変わってないんですね。
川井:全く変わってないです。今の話のように普通は売り上げが苦しくなると「それは理想ですよね」っていいながら理念とは違うことをやろうとしてしまうものです。ただそこに埋没してしまうと終わってしまう。社員から見たら「理念はこうだけど現状は売り上げが立たないんで違うことやります」なんて「なにそれ?」っていう感じじゃないですか。だから「理念はこうだしそれを貫く」それでやっぱり人が集まってくるんだと思います。「パートナーになりたい」っていう申し出もありましたし3次請け、4次請け案件も山のようにありましたけど、うちの理念に合わないものは「さよなら」って感じで全部断りました。
前田: なるほど。逆に設立する前と現在で「これって思ってたのと結構違うんだな」って気付いた部分はありますか?
川井:「もうちょっと賢く人が集められるかな」と思っていましたけど、そうでもなかったということですね。ネットだけじゃなくてリアルの戦略も必要な泥臭い世界だっていう風に感じました。だからこそ他社がやらないことを積極的にやらないといけないので「スカウトを一番に打つ」とか「夜中の3時に打つ」とか「土日でも遠方でも面談の意思があれば対応する」とか色々頑張ってやってましたね。
前田: 結局苦労なくして人は集まらないわけですね。
川井:本当にそう思います。
前田: 理念を貫くことで人が集まるようになったというお話でしたが、社員に対してはどんな思いで接して来られたんですか?
川井:派遣会社を作ろうとは思ってなかったし、名刺にもあるように「ウェブエンジニアのキャリアエージェント」になりたかったので、社員とはかなり密接な関わり合いを持とうとしていました。
前田: ほうほう。密接とおっしゃいますと?
川井:1ヶ月に1度は会って話をしてましたね。普通の派遣会社だと3ヶ月に1度契約の更新確認をするために会うだけだと思うんですけど、「そういう会社にはしたくないな」という思いがありました。あとはSierみたいに技術の面だけ請け負うっていう感じも違っていて、ちょうど「派遣」と「請負い」の中間くらいの会社を作りたかったんですね。そういう意味では「キャリアの支援」っていうのを切り口にして、その手法が「他の会社に紹介すること」とか「自社採用で派遣」とか色々あってもいいんじゃないかという考えを持っています。だからこそウェブキャリアに関わった人達は単に派遣や紹介をして「はい、終わり」じゃなくて「ウェブキャリア一家」みたいなチームにして、いつでも戻ってこられるような1つの「コミュニティを作ろう」という発想があったので密接な関わり合いをしたかったんです。
前田: なるほど。密接に関わることで効果がありましたか?
川井:それこそが継続性の高さだと思います。この転職スパンが短い業界でなかなかないんじゃないでしょうか。普通は設立して1年目だとゴタゴタがあって辞めてしまうものですからね。
前田: 確かに。この業界は転職のサイクルが速いですからね。
川井:はい。それに懇親会も月1回開いていて、いろんな人が集まって話をして「こんな人も仲間にいるんだな」っていうことで絆は深まりますし、それはそれでおもしろかったなと思います。あとメーリングリストは最初からやってましたね。「何か情報共有することがあればメーリングリストで」みたいな感じです。もう1つは名刺を全員に作ること。やっぱり会社に所属するのに名刺がないんじゃ飲み会に行っても嫌な思いをすることもあるでしょうし、これは本当に徹底してやっていましたね。
前田: ほうほう。他にはありますか?
川井:これは会社だからとかじゃなくて一般的な話だと思うんですけど、上司と部下の関係になった瞬間にその上司は「部下や部下の家族の人生に影響を及ぼす可能性を持っている」ということになりますよね。つまりそれが社長とか経営者になったら、「社員全員とその家族の人生を変える影響力を持っている」ことになるんです。だからそこを重くとらえない経営者は失格だと思っていますし、社員に対してはいつもそういう感覚を持って接しています。
前田: 多くの人生を背負っているという意識ですね。
川井:はい。だって実際にその本人が「どういう道に進むのか」とか「いくら稼げるようになるのか」とか「本当に幸せなのか」とかって本人だけでなく、その本人をふくめた家族の人生にも影響が及ぶ話じゃないですか。だから経営者っていうのはそれほどの影響力を持っている人なんですよね。「変えてあげる」とかおこがましいことは言わないけれど、影響力を持っているのは事実ですからそこをどう捉えるかが問題ですよね。ヘタしたらある社員は人間不信になって2度と仕事ができなくなってしまうかもしれないし、逆に大成長するかもしれない。
前田: なるほど。では実際に、社員の人生に影響を与えた思い出やエピソードってありますか?
川井:やっぱり「正社員だったけど手放して他社に行かせた」っていう経験が一番大きいですね。その社員には派遣で行ってもらっていたんですが、技術志向が高かったんです。ある日「技術のことを吸収できるような立ち回りをしたいけど、外部からだとどうしても一歩踏み込めない。今の時期そっちに本気で取り組みたい」という相談を受けたんです。「うん、なるほど。だったらうちにいるよりも会社を移ったほうがいいね」という結論になりました。その会社もずっとお取引できるいい会社でしたし、社長さんも知り合いだったのもあって「預けてみよう」と思い、我が子を養子に出したんです(笑)正社員だったからやっぱり微妙な気持ちがあったものの、「これが彼にとって一番幸せなんだよな」って思って納得しました。あそこで引き止めていてもうちではそれ以上彼の望むようなパフォーマンスを上げられなかったですし、彼にとってもよかったと思っています。実際、彼にも「こんな風に送り出してくれる社長はいないと思うんで絶対成功してくださいね」って言われました。
前田: キャリアアップのきっかけを与えることができたんですね。今でも会ったりするんですか?
川井:はい、今でもゴルフとか行きますね。仕事も楽しくやってるみたいですよ。
前田: 今はどんな会社になったと思いますか?
川井:本当にいいエンジニアが集まる会社になってきたっていう感じがします。昔はどちらかというと現場で苦労した人が多くて、「エンドユーザに近いなんてそんな夢のような会社があるんですか?」なんて多少疲れ気味でここに救いを求めてくる人が多かったんですけど、最近は積極的に「ここで働いてみたい」とか「Rubyをやってみたい」とか「Webのことをしてみたい」とかそういう人が増えている感じですね。
前田: なるほど。それは何故でしょう?
川井:だんだん浸透して来たっていうこともありますし、打ち出し方も自信を持てるようになってきたからだと思います。あとはいい先輩が残って頑張ってくれているのもありますし、社員を食べさせるだけの仕事も増えてきたっていうのもありますね。
前田: バランスよく成長してきていますね。
川井:はい。でも実を言うと1年目については「仕事を増やす」ということをほとんどやってなかったんですよね。時間もなかったですし、紹介とか過去の人脈だけであんまり営業に手間をかけてません。なので、こちらが発注しているWeb系の企業を営業マンに紹介してもらって仕事を決めていました。あとは元リクルートでお付き合いのある社長さんの所ですとか、会合で知り合った所ですね。ただ「そろそろ大手企業どうしようか」とか、「もうちょっと隠れたよいIT企業ってきっとあるよね」っていう話になってきて今まさに営業を増強しているっていう感じですね。
前田: なるほど。仕事を増やすことでエンジニアにどういうメリットがあるとお考えですか?
川井:勤務地だったり、よりキャリアに合う仕事だったり、働いてくれる本人のキャリアの広がりや可能性を増やしてあげられるっていうことです。状況によっては「これで我慢して」っていうこともあるかもしれないですけどね。
前田: 確かにそうなればますます希望に合うものも見つかりそうですね。
川井:はい。スキル的な面では「研修ができる環境」を作れればいいかなと思ったんですけど、まだ実現できていません。後はみんなの相乗効果なのでメッセンジャー使ってうまくやりとりしてもらうとか、知らないことを知っている人が教えてあげるとかを積極的にしてもらえばと思っています。あとはコミュニケーションがやっぱり大事なのでそこは我々がやっていくしかないですね。
前田: 今後はどういった展開をお考えですか?
川井:「ウェブの仕事ならウェブキャリアだよね」っていってエンジニアが頼りにしてくれるような会社にしていきたいです。そのためにはまず、エンジニアに対してウェブキャリアが認知されることが重要なので色々な方法を考えています。
前田: ほうほう。例えばどんなことでしょうか?
川井:まずはリアルな場でのイベントをもっともっと展開していくつもりです。フォーラムやカンファレンスなどへの協賛や技術セミナーの開催など手段は様々だと思いますが、エンジニアとの接点を増やすことがねらいですね。 
前田: なるほど。Webの戦略もあれば教えて下さい。
川井:Webでもエンジニアが興味を持ってくれそうなコンテンツを常に企画しています。現在注目を集めている「Webエンジニア武勇伝」なんかはその典型ですね。CTOやRailsハッカー、個人事業主やAward on Railsの大賞受賞者、研究者などできる限り色んなタイプのエンジニアから「その生き様」をインタビューして発信しているんです。今後でいうと「女性エンジニアBlog」や「エンジニアに役立つ情報を盛り込んだ漫画」の掲載などを予定しています。
前田: ウェブキャリアを広く知ってもらうのに様々な施策を考えているんですね。
川井:そうですね。あとは、エンドユーザに近い環境で働くような仕組みがある程度作れたので、大きい課題ではあると思うのですが「世の中のエンジニアに対する見方をもっと変えていきたい」と思っています。
前田: なるほど。エンジニアに対する見方といいますと?
川井:エンジニアって「きつい、汚い、帰れない」っていうマイナスのイメージが強いじゃないですか。それは世間がエンジニアの仕事を正しく認識していないからだと思うんですよ。だから世間に「エンジニアの仕事」がどんなものなのかをきちんと認識してもらうことでエンジニアの立場を向上させて、もっともっと表舞台に出られるようにしてあげたいんです。
前田: 確かに世間から見て、あまりよいイメージはないかもしれませんね。
川井:そうなんですよね。例えば、これが「営業」や「経理」の仕事だったらまだイメージも沸くと思うんですよ。「飛び込みして怒鳴られる」とか、「毎年決算期はものすごく忙しい」とか。でもメディアなどで取り上げられることも少ないからエンジニアの仕事を本当に分かっている人はあんまりいないんですよね。仕事が分かっていないのだから「エンジニアが世の中を便利にしている」っていう意識も世間の人達にはほとんどないと思っています。「もしもエンジニアが自動改札機やATMを作ってなかったら今頃、待ち行列を作って大変だったよ」なんて話、普段誰も口に出して言わないですからね。つまり、「仕事に関して正しい認識をしてもらえないこと」は「評価をしてもらえないこと」にもつながってしまう。社会的側面としてはそういうエンジニアの見方を改善することも重要な課題と考えているんです。
前田: なるほど。そういう意味では確かに世間からの見方を変えることもエンジニアが幸せになるポイントですね。
川井:ポイントというより幸せの出発点ですかね。だって理解もされずにオタクとか言われたら、やる気でないですよね。
前田: では実際にどういう手段で世間のエンジニアに対する見方を変えようと考えているんですか?
川井:すごく大きな目標で言うとドラマを作ることですかね。
前田: ドラマ?どんなドラマですか?
川井:Webエンジニアが顧客と戦うドラマ「顧客と戦うエンジニア!」っていうのを描きたいんですよ。それをキムタクと深津絵里にやらせて月曜日の9時に放映するんです。そうすれば、 どういう理屈で徹夜になってしまうとか、いかに顧客の発注の仕方が悪いか、いかに苦労して技術を進歩させてきたのか、お客さんからの要求にこたえるためにどれだけ必死になっているのか、なんでなかなか結婚ができないのか、あらゆる側面からエンジニアの実体を世に知らしめることができると思うんですよね。
前田: 確かにドラマで取り上げられると一気にイメージが具体的になりますよね。
前田: エンジニアに伝えたいことってありますか?
川井:20代のうちに自分の将来の方向性を決めてほしいということです。
前田: 方向性ですか。何故でしょう?
川井:本人の適性もありますし、どっちに進むかでやるべきことも全然違いますよね。例えば、技術の畑に進むのであれば技術のことをとことん極めればいいと思いますが、マネージャになるんだったら技術のことに加えて、マネジメントやコミュニケーションやリーダーシップのスキルを磨いたほうがよっぽどためになると思います。
前田: 方向性を早く決めてそのために必要なスキルを早くから磨いておくことが後々になって重要 になるということですね。
川井:それが幸せになるための最大のポイントだと思いますね。技術なのかマネジメントなのかをどちらにも決めずどっち付かずにやって成功する人はまずいません。それを30歳を過ぎてもまだ決めていない人がたくさんいますよね。ある組織の中でトップエンジニアじゃなければそのまま技術で食べに行こうなんて到底無理です。トップエンジニアになるなんてプロ野球の選手になるくらいの確率だと思いますよ。
前田: 非常に狭き門ですよね。
川井:だからこそ「技術でプロになれるのかどうか」を早い段階で見極めなきゃダメなんです。さらに言えば、技術に進むなら進むでいいと思いますが、「20代のうちに技術で生きていくための努力を本当にしていますか?」ということをその人達に問いたいです。プロ野球の選手は毎日走りこみをしますし、試合が終わっても素振りをしますよね。だって好きなことなら「家に帰ってからはやってない」とか「休みにはやらない」とかは絶対におかしいじゃないですか。本当に好きなことは四六時中やっていたいはずですし、四六時中鍛錬してるはずです。それで食べていこうとしている人達だったらなおさらです。だからそういう努力もしていないし、できないというなら技術でプロにはなれないですよね。だったら30代からはマネジメントをした方がいいです。この考えは相当僕の中では強いですよ。その技術でプロの道にいけるかどうかの瀬戸際にいる人達が、その道に行こうと決意した時に仕事はもちろん仕事以外でもどれだけの努力をしてきたかってことですよね。努力をしてきた人達の中のほんの一握りしかプロになれないんですから。
前田: なるほど。川井さんも若い頃から仕事が好きでしたか?
川井:はい。楽しいし夜中や土日に仕事をすることをなんとも思わなかったですね。それに、どんなに会社の環境が悪かろうが、上司や先輩と相性が合わなかろうが「やりたいことしかやらない」ということを徹底していました。好きなことならどんな時でもそれを自分から好んでやることが重要ですよ。だいたい野球の選手でも「監督やコーチが気に入らない」とか環境のせいにしたりして練習をしていない人は2軍に落ちてしまって食べていけない可能性が高いですからね。
前田: ほうほう。会社以外でも努力しなければ2軍に落ちてしまうのはエンジニアも同じということでしょうか?
川井:同じことが言えますね。会社にいけばできるようになると勘違いしている人が多いです。それはグラウンドにいけばうまくなれると思ってるのと一緒ですよね。ビジネスでやってる以上、位置づけはサラリーマンなんですから会社のミッションが最優先ですし、お客様が最優先になるはずなので会社の時間だけでプロになれるだけのスキルアップをすることはかなり困難なことでしょう。
前田: そういう状況も踏まえた上で「いまの自分が本当にプロとしてやっていけるのかどうか」を早く見極めろっていうことですね。
川井:「社員への思い」があるとしたらそこなんです。20代後半になった人がプロとしてやっていけるのかどうかはそれまでの社会人生活をどう過ごしてきたかを見ればすぐ分かります。プロになるくらいならそれはもう相当腹決めして、それ以外には目もくれないっていう人生になるはずです。常にキーボード持ってるっていうくらいじゃないとダメなんです。本当にできる人達はパソコンがなければ昔ノートにコード書いていましたし、それくらい努力の度合いが違うんです。だから社会人生活で何も努力してこなかった人が、30歳になって初めて「さぁ努力しよう」っていったってそれはできないと思いますよ。結婚して、家族ができて、家も買ってって仕事以外にも色んなことがあるのに、何もなかった時期に努力してこなかった人が「どんどん忙しくなっていく中でこれまで以上の努力ができるか」っていったらそれは無理な話です。もっと言えば、若い頃なんてお金がないから仕事しかすることないですけど、今後は稼いだお金を使う時間だって増えてきますし、歳をとると共に体力的にも仕事できる時間だってどんどん減っていきますから。
前田: なるほど。これまでのお話からすると「技術でプロになるのは相当難しい」という印象なんですが、それだと逆にプロにならないなら、どうすべきなのかが気になるのですが。
川井:「プロにならない人はどうするのか」っていうのは相当重たいテーマですね。もちろん「その人達も救いたい」という思いはあります。別に新しい言語を身に付けることが全部本当のキャリアアップにつながるわけじゃないですし、プログラムの知識があるだけで重宝されるんですからそこから「プロマネ」「ディレクター」「営業」もしくは「キャリアカウンセラー」とか他の職種になったっていいじゃないですか。プロレベルになれないのにいつまでもコーディングにこだわってプロ並みの給料を貰おうなんていうのはありえないですよね。それならば今後のことをきちんと考えてやってコミュニケーション能力身に付けたほうがよっぽどよいと思います。
前田: ふむふむ。では「プロにならない人」にとって今後必要なものは何ですか?
川井:やっぱり「顧客志向」と「チームワークを作るためのリーダーシップ」が必要だと思います。でもそれにはやっぱり訓練がいるのでその訓練をどうするかがポイントですよね。
前田: なるほど。ただ最初のうちはその考え方に抵抗があるかもしれないですよね。
川井:「自分はコーダーじゃない」ってまず自分が決めなきゃだめなんですよ。そして、コーダーだったのならコーダーの気持ちはわかるはずですし、お客さんとのトラブルだってそれこそ数多く見てきているはずなので、できないことはないと思います。だから、「プロになれない人」がダメだっていうわけじゃなくて、「プロになれないというのが事実ならその事実としっかり向き合った上で、どうすればハッピーになれるのか」っていうことを自分で考えてほしいんですよ。本当はトラウマがあって社会復帰したくてもなかなかできないような人もハッピーにしたいんですけど、そのためにはやっぱり近くにいないと難しいし、そうするだけの力が今のウェブキャリアにはない。だから齋藤ともよく「そういう人って支援するんだっけお断りするんだっけ?でもエンジニアを幸せにするっていう理念がある限り支援するんだよねって話してますよ。
前田: では、それも嫌で「どうしてもコーディングをしていたい人」はどうすればいいでしょうか?
川井:その場合は家族や奥さんに「俺はこれ以上給料が上がらないけどそれでいいか?嫌だったら離婚してくれ」ってきちんと言ってほしいですね。それで奥さんや家族が「わたしも働くから気が済むまでやっていいよ」って了解してくれたらバンバンザイで「そんなあなた幸せモンだね」って言いながら僕も応援しますよ。いいじゃないですか、お金なくても奥さんや家族が「いいよ」っていってるんですし。それが本人の人生設計とちゃんと握るってことじゃないですか。ただしその場合は「もっと年収を上げてほしい」って絶対言わないことを約束させますけどね。でも現実問題子供もできたらそうもいってられないでしょうし、大半の話それは成り立たないですよね。
前田: なるほど、だからこそ方向性を決めることが重要なんですね。
川井:そうなんです。上司とか経営者はその人生に影響を及ぼす存在なんだから、方向性を決めてあげることも含めて部下や社員に対して接しなきゃいけないと思います。「今は技術のことだけやってりゃいいから、時期がきたらまたいうから」なんていって方向性に関する意思決定を先延ばしにしている上司がよくいますけどそれは最低なんですよね。そんなの自分の都合のいいように使ってるだけですよ。表面上の優しさとか、その場限りの優しさなんて本当の幸せにはつながらないじゃないですか。なんていったってその人とその人の家族の人生を背負ってるんですよ。「幸せにしたい」っていうのは口だけで実現できることでもないし、調子よく仕事を振ってできる話でもないし、生半可なことじゃない。だからどこかでやっぱり進むべき方向性を決断させなければならないんですよね。ただ、その後うまくいくかどうかはもう本人の問題だし、運もあるので結果は結果として受け止めればいいと思います。
前田: エンジニア側は「プロとして生きる」なら技術を身に付ける努力を、「プロ以外の道を選ぶ」なら「顧客思考」と「チームワークを作るためのリーダーシップ」を身に付ける努力をそれぞれしなければならない。だから、どちらにするのかの方向性を早い段階に決めなくてはならないということですね。
川井: その通りです。ただ、そうは言っても方向性の決断は簡単にできるものでもないと思いますので本当に応援したい気持ちでいっぱいです。
前田: なるほど。大変ですね〜。
川井: 大変ですね〜って君も考えなきゃいけないって気付いてるかぃ?(笑)
前田: あ、そうですね(笑)しっかり考えます。今日はありがとうございました。
川井: はい、こちらこそありがとうございました。
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