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トシくんは、IT専門学校を卒業後、中規模SIerにて働くコーディング大好きな若手SE。 プログラミングならなんでもござれ!…と強気な一方で、商慣習とかについてはまったくの門外漢。故に「なんすかそれは」と、失敗なんかもポコポコと。 そんな彼の体験談。はてさて、今回の話やいかに。

 とある商社向けの会計システム。そんな案件を担当することになり、私SEフトシめは、要件定義をとお客さんのところにお邪魔していたのでありました。

「ここはこんな感じですか?」

「ええそうですね、あ、ただその場合だと…」

 一見スムーズに進む打ち合わせ。でもなんか違和感があるんですよね。なんでだろ。

「この帳簿に関してはどういった」


 ちなみに担当は、ある年次処理を行うモジュールの作成でした。

「ああ、ここは入力としてですね…」

 違和感はさておき、やはり一見スムーズに話は進んでいきます。


 小一時間ほどが経った頃、ようやく違和感の正体に気づきました。

『あ、そうだ。ここまで一切勘定科目の話してないんだわ』

 会計なのに勘定科目のことを確認してないとあっちゃ片手落ちです。こりゃいかんと、さっそく私は、そのことを確認することにしたんです。


「そういえば勘定科目なんですが、どういうものがあるか一覧として確認できる資料とかありますでしょうか?」

「は?そんなの今の話の中には関係ないでしょ?」

 ……へ?


『会計なのに、勘定科目が関係ない?』

 その疑問を晴らすべく、色々問いかけを行ってみるも、どうも話が噛み合いません。モクモクモクと暗雲が垂れ込めてまいりました。

 勘定科目というのは、帳簿上で「これはどういう名目の金額ですよ」と記載するために用いる科目のことです。こっちの業界に馴染みのある言葉に直せば、「ジャンル」とか「カテゴリ」とかになる…のかな。たとえば「事務用品費」という名目でいくら出費したとか、そういうのに使うわけです。

 

 そんなもんだから、当然私SEフトシ的には「会計にはあったりまえだの必須事項」であると思うわけですよ。

 するとお客さん、口を開いてこう言いました。

「あの…、まさかと思いますけど"管理会計"って知ってますよね?」

 なにそれ、知らない。

 

「あの…、財務会計じゃなくて、管理会計のシステムなんですけど、これ」

 私の口はポカンと開いたままになりました。頭の中で、「財務」「管理」という言葉を咀嚼しようとモゴモゴしてはいるんですが、わけのわからん迷走ループに入って混迷の度を極めたまま、こともあろうにタスクスイッチがいっさい効かなくなってしまったのです。


「はあぁぁぁぁぁぁぁ…」

 お客さんの口から、長い長いため息が漏れました。長い長い、とてつもなく長〜いため息と、そして静寂の時。


「あ、あの…。知識はないのですが、お話だけ伺って帰るようにします」

 なんとかそう絞り出した私。目をあわせることもなく、間髪入れずに返ってきたのは、「ハイ、ソウシテクダサイ」という感情のない冷淡な声でした。

 とてもとても怖い時間がこの後に続いたのは、もはや言うまでもありません…。

私、青色申告してまして。

はーそーですか。

いや、そんな白けた返事せんでくださいよ。だからですね、帳簿付けたりしてるわけなんで、「会計=勘定科目だ」とは確かに思うとこなんですけども。

だから財務だっつー話ですわね、それはね。

それですよ、それ。「財務」ってなんなんですか?

普通に会社法等の法律で規定された書類を作る会計がね、「財務会計」というんですよ。だから青色申告のために、決算とかでやる会計は「財務会計」。

んじゃ「管理会計」は?

そっちは「管理するため」の会計。

そのまんまじゃん!?

だってそうなんだもん。たとえば部門別の売上推移を見たりとか、自社の収支を管理するために行う会計が「管理会計」なのよ。だからそのやり方も、会社によってまちまちなわけだ。

あ、それならウチでもやってますよ。年初に個別の書籍や連載なんかの売上予測をたてて、それをエクセルの年間表にはめ込んで、あとは実際の入金で数字を書き換えていってるんですけども。

ほほぉ。

で、それに計画値との差分と、月ごとの支出額も入れ込んでいって、フトコロ具合を随時はかれるようにしてるんです。

それ、青色申告用の「財務会計」部分とリンクしてます?

いや、帳簿の方は源泉徴収がどうこうとかあるし、細かい支出もいちいち押さえなきゃいけないんで、リンクさせてないですね。ざっくり金額を見たいむきには、あのへんの数字って邪魔くさいだけなので。

あー、やっぱり。本来は「管理会計」の結果が「財務会計」と一致してればベストなんですけど、今言われたような理由で、完全に別物扱いなケースが多いんですよ。

なるほど。ところで先生的には、今回フトシくんが「しょぼんとなっちゃった」理由はどこにあると思います?

「管理会計のシステムでは、必ずしも勘定科目が必要なわけではない」って視点を持つことができなかったからでしょうね。管理主体の目的把握がずれちゃったまま、軌道修正ができなかったんでしょ。

作家・きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。本業のかたわらWeb上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
URL:http://www.kitajirushi.jp/
※大好評 Webエンジニア武勇伝にも掲載!第10回 きたみりゅうじ氏

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