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トシくんは、IT専門学校を卒業後、中規模SIerにて働くコーディング大好きな若手SE。 プログラミングならなんでもござれ!…と強気な一方で、商慣習とかについてはまったくの門外漢。故に「なんすかそれは」と、失敗なんかもポコポコと。 そんな彼の体験談。はてさて、今回の話やいかに。

 お客さんとこの受発注システムを作ってて、いよいよ最後のテストフェーズに入った時の話です。


 「ねぇ、これ請求書に売上がのってないんだけど」

 お客さんのところで導入前のプログラム検証を行ってもらっていたところ、そんな電話がかかってきました。受発注システムで売上に漏れがあるとなっちゃ大事件。こりゃまずい!と、慌てて確認することになりました。

 幸い、試験環境自体はこっちにもあるので、とりあえずは問題の起きたとされるデータを送ってもらうことに。これで解明できないとなれば、当然先方にお邪魔して…ということになりますが、さてさてどうなりますか。


 お客さんから送ってもらったデータで検証したところ、答えはあっさりと見つかりました。

 「9月の売上」として登録されてるんだけど、9月分の請求書にのってこないとされているデータ。確かにこちらの環境で試してみても、その通りに出てきます。

 それで「なんでだろう?」とレコードを見てみたら、なんと請求日フィールドが空っぽになっちゃってる。請求書を作る際には、「請求日がこの日付範囲に該当するレコードをひっぱってこい」って案配にデータを抜き出してきてるので、ここが空っぽだと当然そこには含まれてこないのです。

 「ああ、これが原因か。そりゃこうなるわ」

 とはいえ売上日にはしっかり日付が入っているので、それが請求書にのっかってこないとなると、確かにこれはまずそうです。

 「うーん、請求日が入ってないデータってのも有り得るんだ。んじゃどうしようかなぁ」

 見たところ、売上日フィールドには、いつも請求日フィールドと同じ日付が入っている様子。だったらそもそもこれは、売上日の方で処理すべきもんだったんじゃないの?

 そう思った私は、ちょちょちょいっと集計対象を「売上日基準」に書き換えたのでした。

修正したモジュールにお客さんの環境を差し替えて、ほっとひと息ついた後、またまた電話がルルルのルと鳴りました。

 

「なんで翌月請求にした売上が今月にのってきてんだよ!!」

電話口に響くは、前にも増して語気を荒げたお客さんの声。「あれれ」と思う間もなく言葉は続き、バグがバグを呼んだ不始末を手厳しく叱りとばされる始末なのでした。


 …で、けっきょくどうだったのかというとですね、「請求先のキャッシュフローに応じて、当月の請求を翌月に回す等は慣習としてままあること」なんだとか。そのために請求日が存在するので、やっぱり請求書についてはその日付をもとに作らなきゃいけなかったらしい。

 んじゃ、そこが空の場合はどうなるのって?

 

 そん時は、売上日を見るようにすれば良かったらしく…。

 さらに修正したモジュールを納めた際、「今度こそ大丈夫なんだろな」というありがたいお言葉をいただきました。思わず心の中で、「だってそんな慣習知らんわな」と答えてしまう私なのでありました。

あー、これはありそうな話ですね。

まあ、そもそも単純に「売上日」で決まる方が少ないわけでね。

そうなんですか?

うん、「何を基準に請求書を作るのか」って問題があって。

ほーほー。

売った方とすりゃ「出荷日で売上がたつ」んだろうけど、その時点だとお客さんとこにはまだ届いてないでしょ?

そうなりますね。

んじゃ、お客さんの方としては、「届いた日」とか「中身を確認して検収を済ませた日」に仕入れとして計上するわけだ。

ふむ。

そのタイムラグと、双方の締め日がいつかによって、どの月で請求処理をするべきかは、やっぱ変わっちゃうでしょ?

あ、そっか!手渡しで即時決済とかじゃないんですものね!!

そういうこと。

でも、「いつ届くか」くらいはまぁわかるとしても、「いつ検収が完了してくれるか」までは出荷側じゃわかんないですよね?

そこで基本契約書の出番なわけ。「何を基準に請求書出すか」とか「検収は納品何日後までに完了すること」とかをここで決めちゃうのよ。

ははーなるほど。そりゃ単純に「売上日で請求日が決まる」とはいかないわけだ。

まぁ、それとは別に、「ちょっと今期は予算がキビシイから請求は来期に回してくれ」ってのも当然ありますけどね。

あ、やっぱりそれもあるんだ。でも、そうやって売上操作とかしたら脱税行為になったりしないんですか?

会計上ちゃんと整合が取れてりゃ大丈夫だと思いますよ。「売った」と言った在庫が自社内に残ってたりとかしてなきゃね。

でも、ソフトウェアの世界だと「試験前のブツだけど、とりあえず今期で検収だけは済ませてもらって売上に計上しちゃえ」とかできちゃいそうですよね。はっきりとした形はないから。

それは…確認の方法が確かに難しくてね、グレーゾーンですわ。うん。

作家・きたみりゅうじ
もとは企業用システムの設計・開発、おまけに営業をなりわいとするなんでもありなプログラマ。本業のかたわらWeb上で連載していた4コマまんがをきっかけとして書籍のイラストや執筆を手がけることとなり、現在はフリーのライター&イラストレーターとして活動中。
URL:http://www.kitajirushi.jp/
※大好評 Webエンジニア武勇伝にも掲載!第10回 きたみりゅうじ氏

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