川井: |
リクルートをお辞めになったのは何かやりたいことがあったんですか?
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白井: | いや、そういう意味でいくと、Exitですよ。1回退職しようって感じですね。
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川井: |
先も決めずに一旦、辞めてみようという感じですか?
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白井: | やりたいことを追い求めていく人っていうよりは、僕は1回ぎゅっと辞めてみましたっていう感じですね。
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川井: |
しばらくはプラプラしていたんですか?
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白井: | そうですね。何とかなるかなって(笑) 半年は遊びみたいなことをしていて、そのあと少しずつ始めました。ありがたいことにリクルートを辞めた先輩がいろんなところにいらっしゃるんで、そういう人とかに会ったりとか、色んな話を聞いたりしながらふらふらフラフラしていて、「辞めたんでなんかあったら仕事ください」って言っていたら、1年しないうちにウェブサイトを作って欲しいっていう話を頂くようになりました。いろんな人に「独立して、とりあえず仕事の話をもらったら、出来る出来ないは関係なく、やりますって言え」って言われましたね。
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川井: |
なるほど。それは正しいかもしれませんね。
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白井: | 受けてから、最悪駄目だったら、誰かが助けてくれるからって言ってくれたんです。これは自分でできるかなって思うこともいっぱいあるけれども、本当に時間がなくてっていうのは別ですけど、やったことないからとか、そういうので断るみたいなことは基本的にやらない方がいいよって言われたんですよ。
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川井: |
これって、リクルートならではの文化なのかもしれないですけど、エンジニアで個人事業をやると、どうしてもこれはできないとかできるとかゼロイチなんですよね。エンジニアって、会社でもいろいろひどい目に遭ってるじゃないですか。だから、びびっちゃうと思うんですけど、これは独立したいエンジニアにとっては、すごいためになる話だと思いますね。
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白井: | MovableTypeでやりたいんだとか、XOOPSで作りたいとか、挙句の果ては、カメラで監視システムつくりたいんだよとか、バナー作れる?とか頼まれて、「はい、やります」って言った後に、よく考えたらFlashなんてやったことないよってことがいっぱいありましたけどね。
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川井: |
当時、独立する前はウェブの開発でもコーディングなんかはやってないんですよね。
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白井: | 全然やってないです。やれるかどうかより、やってみて駄目だったらばっていう開き直りですね。
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川井: |
どうやってノウハウを身に着けたんですか?
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白井: | なんでしょうね。前、PL1ってどうやって勉強したのかって話があったと思うんですが、それと同じ状態で、たまたまMovableTypeを使ってやってほしいって言われてMovableTypeを覚えたってだけなんです。ソースを読んで、直すところをネットでひきながら直したりとかですね。
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川井: |
ソースを作るっていうのはイメージ的に分かってらっしゃるので、言語の特徴だけ分かれば出来ますもんね。
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白井: | こんなことはできるはずっていうのは調べられるので、これはこの言語でいくとどう書くんだっけとか考える感じですね。
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川井: |
それを1個1個出てくるもの出てくるものを対応していって覚えたんですね。
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白井: | そんな感じでフラフラしていて、リクルートでも開発のディレクションとかもしていたんですが、たまたまリクルート時代の同期の人間が、ベトナムで、株式会社Hanoi Advanced Lab(HAL)というオフショアの会社を作ったんで、一緒にやらないかっていう話になったんです。リクルートってドメスティックな会社だったので、もともと自分の人生の中で一度海外で仕事をしてみたいなって興味があって、面白そうだなって事になって、じゃあ、開発を通じて一緒にベトナムの経済を作ってこうよって話になったんです。ベトナムはこれからの国なんで、僕らが日本で出来ることをやって彼らを育てて、彼らが大きくなってくれたら経済が良くなってみたいなビジョンを共有できたので、トライしてみたんです。
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川井: |
面白そうですね。
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白井: | なので、個人的にフラフラしてるのを抑えて、そちらに専念しました。
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川井: |
こちらは、役員に入られたんですよね?
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白井: | そうですね。
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川井: |
向こうに常駐されていたんですか?
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白井: | 常駐はしてないですね。
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川井: |
たまに行かれる感じですか?
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白井: | そうですね。基本的にお客様は日本の会社なので、日本のお客様と仕様を詰めて、設計書を起こして、開発となったら向こうに教えに行ったり、コーディングのチェックをしに行ったりというのは結構ありましたね。
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川井: |
大体どういう技術要素でやられることが多いんですか?
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白井: | LAMP環境でしたね。はじめてから、勿論、お客さんには「出来ますよ」って言っていたんですけど、実際、中に入ると、日本の中学生プログラマーかっていうようなレベルで、この状態で、仕事でプログラム書けるって言っちゃいかんだろう、という感じでした。それに全員若いんで、教えてあげられる人もロールモデルになるような人も向こうにはいなかったんです。
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川井: |
それでも、海外だと「出来る」って言いますよね。出来ないなんて言わないですもんね。
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白井: | ええ、「出来る」っていいますね。逆の立場で身をもって知るみたいな感じでしたね。
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川井: |
日本人の仕事は馬鹿正直だって言いますけど、その通りですよね。
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白井: | それで、結局、一緒にやりながら、こちら側で持っていることを色々教えながらやりました。
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川井: |
どのくらいで十分な開発体制になったんですか?
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白井: | 全然まだまだですよ。僕がいるときに大きいのを2つやって、1回目はボロボロでしたけど、2回目はかなりアジャスト出来ましたし、何個か開発案件をこなしていくことで成長はしていますよね。1回目は泣きそうでしたもん。全然バグが潰れなくて、こっち側が火を吹いてて向こうに行っているのに、「お先失礼します」って帰っちゃうんですよ。「終わってないだろう!!こら!」って(笑)向こうの生活も分かるんで仕方ないんですけど。6時くらいにゾロゾロってみんな帰ってちゃうんですよ。
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川井: |
(笑)しょうがないですよね、これは。
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白井: | 日本じゃ考えられないですけど。向こうでは普通ですからね。
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川井: |
その状態からある程度いけるところまで成長させるっていうのはなかなかすごいですね。
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白井: | 真面目ですからね。みんな根は真面目なんですよ。
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川井: |
限られた時間のなかでもしその時間についてはっかりやりますよってことですよね。日本人はだらだらやりながらサボりますからね。
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白井: | そうですね。でも彼らもサボりますよ。普通にサボってますけどね(笑)
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川井: |
タバコを吸いに行ったっきり帰ってこないとか(笑)
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白井: | 追い込みのときに帰られると困りますね。でも、最後の最後にはみんな残ってくれましたね。
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川井: |
文化的にもチェンジしたってことですね。
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白井: | 本当にそれはやりましたね。全員は無理ですけど、かなり残ってくれるようになりました。1回ご飯を食べに帰ってからまた戻ってきてくれるとかでしたね。向こうは、夜ごはんを家族で食べるのが基本みたいなんです。
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川井: |
健全ですね。そういう慣習なんかも知らないとマネジメントできませんね。ちなみにコストはやっぱり国内で外注を使うよりはかなり下がるんですか?
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白井: | ええ、やっぱり安いですね。
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川井: |
質的にはそういった意味では担保する努力をされて、そんなに遜色ないものが出てきていても、コストは下がるということですか?
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白井: | 下がりますね。大きいのは、メンテナンスフェーズに入ってからじゃないかと思うんですよね。イニシャルではドキュメントを作らなきゃいけない工数や日本側の工数もあるんで、画期的には減らないかもしれないですが、メンテナンスフェーズになって半年くらいで直していきたいよって言ったときに、PG2人、SE1人ぐらいで、ある程度やるとすると、やっぱ日本で250万とかかかっちゃうんですけど、それが向こうでやると、ぐっと落とせるんで100万もあれば十分いけるんですよ。
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川井: |
国内でドキュメントっていらないっていうことも多いんですけど、向こうだといりますもんね。
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白井: | ある程度のドキュメンテーションはしますけど、それでも、そんなには作らないですけどね。
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川井: |
基本的にはLAMPだけですか?
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白井: | 何でもやっていますね。Javaもやりますし、最近は、RubyやFlash系もやり出したって言ってましたね。
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川井: |
そうなんですね。
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白井: | コスト優位もあるし、いろんなところからお話をいただくようになっているんですけど、ブリッジSEが立たないんですよ。それは先行投資だと思って、向こうのSEを日本語学校に通わせて勉強させて、こっちに呼んで、業務の中に入れて日本式のどろどろや日本語も学ばせて、日本のパートナーとしての力をつけさせて、ちょっと育てていくというようにしているんです。
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川井: |
難しいのは語学的なものですか?文化的なものですか?
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白井: | 両方ですけど、まずは語学ですね。英語で喋ってくれれば通じるんですけど、日本人は英語が出来ないので。文化的なところもあるんですよね。例えば郵便番号って日本人が言えば、3桁4桁って普通に分かるじゃないですか。彼らは多分分かりませんね。
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川井: |
京都の住所なんて言ったらひっくり返っちゃいますね。
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白井: | そうなんです。それに電車もあまりないので、東京駅っていうところには10も路線が入っているっていうのとかは向こうではまったく分からないんです。電車っていうのが1つあって、それに対して駅があるんじゃないのかと思っちゃうんですね。ハノイ駅っていうのはあるんですけど、駅があって1本だけ電車が郊外に出て行くってだけなんです。
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川井: |
なるほど。それは大分イメージが違いますね。
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白井: | 僕らは、何を作っているか分からないコードだけ書いているプログラマっていうのはやめようとしてるんで、そういうことも分かってもらいながらコードを書いているプログラマーにしたいんです。なので、日本の常識とか業界の常識を含めてなるべく話をしていて、そういうのがどこかでミスを減らせると思っているんです。
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川井: |
今は、こちらの会社はいったん引かれているんですか?
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白井: | そうですね。せっかくやるんだから向こうでIPOしたいよねって思っていたんですけど、ベトナム側の事情も色々とあっったんです。ハノイアドバンスラボは日本の100%出資の会社だったんで、このまま大きくしていっても、IPOするのにあっちの法的な問題もあるという話で、ベトナム100%出資の兄弟会社であるランシステム側に全部移して、我々は幾つか株をシェアさせてもらってやりましょうかっていうことにしたんです。そのまま残る方法もあったんですけど、リクルート側のメディアテクノロジーラボ(Media Technology Labs)が出来上がって、カヤックさんとかともお仕事が出来るようになったっていうのもあって、僕はそちら側でウェブの最新の情報とかそういうものに触れていて、情報を提供できるようなポジションでいようっていう話で、顧問っていう立場にさせてもらいました。
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川井: |
で、現在に至るってことですね。
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白井: | ようやく現在に至るまでの話が終わりました。長くてすいません(笑)
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川井: |
いえいえ、とんでもありません。面白いお話をありがとうございました。
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