
今回は、「企業における研究者」をテーマとしまして、第7回の「Webエンジニアの武勇伝」にご登場の大場光一郎さんからご紹介いただいた日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所(TRL)の主任研究員でいらっしゃる宮下尚氏にお話をお聞きします。取材会場は、日本アイ・ビー・エムの大和事業所内の会議室です。東京基礎研究所は、1982年に設立された歴史のあるラボで、数々のイノベーションを創造してきました。なお、ご紹介者である大場光一郎さんと日本アイ・ビー・エムの広報ご担当の永渕貴史さんにもご同席をいただいております。
http://www.trl.ibm.com/extfront.htm
宮下 尚 氏
2001年Free Standards Group、OpenI18N WGでInput Method Subgroup Leaderとして入力メソッドの開発および標準化に従事.2003年日本IBM東京基礎研究所に入社.以来、XML、高信頼性ミドルウェア、アクセシビリティの研究開発に従事.
※最近のアクセシビリティの取り組みについては、こちらをご覧ください
http://www-06.ibm.com/jp/press/2007/12/0502.html
■著書
入門 GNU Emacs オライリー・ジャパン
入門XML オライリー・ジャパン
便利に使おうMule for Windows活用入門―Windowsで文章を扱う人へ カットシステム
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The World is Flat※8という形で、世の中がどんどんフラットな構造になっている、つまり、世の中どこにいても世界のどの地点にいても同じプレイグラウンドにいられるというのがThe World is Flatのポイントなんですけど、かつてストールマンに会った時に彼がこう言っていたんです。「ソフトウェアというのは無限の生産性を持っていて、いっぺん書いたら誰もがコピーして使える」これはソフトウェアがThe World is Flatの世界で、ものすごい力を持っていて、誰かが書いたソフトウェアがあっという間に発展途上国の世界でも世の中のいたるところで使えてしまうっていう力を持つっていうことなんです。さらに恐ろしかったのがムーアの法則です。当時はまったく信じてなかったんですけど、パソコンがすごく安くなって、昔のスーパーコンピュータみたいなパワーを持つようになっちゃったんですよね。それで、パソコンの方に価値があるんじゃなくて、ソフトウェアの方がバリューを持つようになってしまったんです。こんなにソフトウェアがパワーを持つっていうのは今、実際におこってみても面白いことですね。
そういう動的コンテンツを含むサイトをアクセシブルにするっていうのが、私のやらなくちゃならなかったことだったんですが、途方にくれましたね(笑) 今回、
私とアクセシビリティとのそもそものつながりってそこなんですよね。視覚障碍者だった坂本貢さんや井上浩一さんに頼まれて、じゃあ貢献しようってことで、Meadowを視覚障碍者にも使えるようにということで。彼らはMeadowSpeakとかEmacsSpeakとかで、Emacsもしゃべれるようにしようという活動をやっていたんですよね。そういうこともあって浅川からは、私はアクセシビリティに詳しいんじゃないのかって勘違いを受けまして(笑)できる範囲でって思ってやっていたら、思わず深いところにまで足を突っ込んじゃったんですよ。そういった意味ではいろんなことがつながっていますね。でも、こんなにどっぷりアクセシビリティにつかっちゃうとは思いませんでしたけどね(笑)
ずっと模索しているんですよ。大場さんは、JRubyとか大分貢献していると思うんですが、私実は、あまりオブジェクト指向って好きじゃないんですよ(笑)こんなこというのもなんなんですけどね。私は数学チックな研究者チックなことをずっとやるのが好きで、そういう方向に入るとあぶない方向にいきそうなんですけど、そういう意味では、純粋にコンピュータをサイエンスとしてみたときに何をやりたいかっていうのはまた面白いんですよ。その時に実は、コンピュータの研究って悪い言い方をすれば全然、世の中に貢献できてない。オブジェクト指向ってとても珍しいんですけれど実はあまりうまく学問になってない。ってことを言ったら怒られちゃうな・・・コンピュータサイエンスの中でオブジェクト指向って実はあまり綺麗な部類のものじゃないんですよ。関数型言語とか論理型言語ってとても綺麗なもので、型理論とかもあるんですけれど、そういう学者が研究するもの以外のものの方が世の中には普及しているんですよね。アラン・ケイが研究があまり世の中で参照されていない状況を皮肉って、「世の中の人は全然勉強していない」って言っていましたけど、研究がうまく世の中に貢献しているかというとそれも実に怪しいんですよね。中でもデータベースとプログラミング言語、それとコンパイラの世界が、なんとか学問としては研究しているところがあるんですけれどね。私の野望の1つとしては、コンピュータサイエンスのエッセンシャルなところから世の中にインパクトを与える研究がしたいというのがありますね。ひとやま当てたいというのがないわけじゃないんですけどね(笑)そういうことを考えるときって、世の中のトレンドがどこに向かっているかっていうのがすごく重要で、しばらくはRuby on Railsみたいなのが結構きいているだろうなって思うし、逆にRuby on Railsがいっちゃったから学問みたいなのが上手くいかないのかもしれませんね。論理型言語みたいなお話は実は結構興味をもっていて、というのも、昔、ICOTというところで第5世代コンピュータの研究を日本のエリートの人たちを集めて国家プロジェクトとしてやっていたんですね。産総研にも、ICOTにいらっしゃった方がいたんですが。その時に並列論理型言語という研究をしていて、それは今の世の中にかなり意味があるんじゃないかなって思っているんです。それはなぜかというと今のCPUにはコアがいっぱい※9のっているんですよね。デュアルコア、クワッドコア、オクタコア、…128コアとかそういうところまで拡張されることが予想されていて、どんどん並列に物が動くようになってきているんです。プログラミングも当然、そういう方向をサポートする動きをするんだろうなと思ったときに,、当時はとてもいい研究をやっていたなあって思うんですよね。実はあまり省みられないんですけどね。そういう意味でも、研究が上手く実用になることなんてすごく珍しい。
そうですね。それだけでも大変だと思います。数式はチューリングマシンよりもパワーがあります。それをチューリングマシンと等価レベルにもっていって、チューリングマシンと等価な言語に直すので同じパワーを持っているんです。そういう意味で書けるんですけど、これは読めないんですよ。それは言語にパワーがないってことなんです。まつもとゆきひろさんも同じようなことを言っていたと記憶していますが、パワーのある言語とパワーのない言語っていうのがあるんですよ。数式っていうのは、ある極端な方向にいったパワーのある言語なんですよね。ただ、この数式とか数学っていうのは一番訓練が必要なんです。大学時代に一生懸命頑張ったのは意味がありましたね。数式っていうのはそのままではあまりにパワーがありすぎて、コンピュータでは実行できませんからね。
ソースコードを書きたい人にはアドバイスがありますね。勿論たくさん読むって言うのは月並みなアドバイスなんですけれど、書くにしてもなんにしても、どういう意図をもって書くのかっていうのを自分の中で持って置いてほしいんですね。ともするとソースコードって嫌がられるんですよね。好きで書いている人の方が珍しい。我々は本当に珍しいタイプなんですよ。結構かわいそうなのは、そういう立場で書かなきゃならない人で、そういうのを見ていると心が痛いんですよ。好きになるっていうのは難しいですし、文章を書けっていったらここまで苦痛になる人はほとんどいないと思うんですが、プログラミングではこんな目に遭っちゃうっていうのは、明確な理由があって、動かないものは動かないってことなんですよ。本当にクリアに結果がでちゃう。アドバイスとしては、人に分かるように書くためには、これまでみんなこんな風に書いているんだから、こんな風に書こうというようによいものを真似することですね。プログラミング言語を書くって意味では、その上に人間の意図があるんですよ。意図がないのは本当にとんでもないか、ものすごいのかどちらかで、後者は普通の人は触れない方がいいと思いますが、願わくは、その意図していることを汲み取ってあげてほしいんですね。どんな言語でもそれは同じなんですよ。私は人にプログラミング言語を教えるときってそういう風に教えていますね。「何をしたいんですか?」「どういうことを最終的にこれでやりたいんですか?」「じゃあ、どう書くんですか」と落としていきたいんですよね。これは今のところ、どんな言語でも変わらないんです。日本語の文章を書くときだっていろんなことを知っているか名文が書けるんであって、プログラミング言語も同じで、いろんなことを知っているからいろんなものが書けるんです。その中で自分が得意とすることって1つだけじゃなくて、業務に知識を知っている人は、私より業務のプログラムを上手く書けるでしょう。そういう意味でいろんなことを知って、その上で自分の書きたいことを見つけてくれるといいなって思いますね。



